春に食べたい ヴェネチアの郷土料理 5選

ヴェネチア人は、誇り高い民族である。

「ヴェネチア人の歴史」という分厚い何巻にもわたる本があったり。

「ヴェネチアの言葉は方言ではない。昔は、世界中の人がヴェネチア語を標準語として学んでいたのだ」と言うヴェネチア人にも何度も出会った。

「ヴェネチアに住んでいれば、世界を旅しなくてもいい。世界がヴェネチアにやって来るのだから。」というお言葉も聞いた。

確かに、ヴェネチアは古くから商業の都として栄え、現在でも観光客が世界中からやって来る。

ラグーナという独特の海に囲まれたヴェネチアは、その地形を利用することで海上での戦いを制し、一時はアドリア海の王者として君臨した。

そして、戦いだけでなく、飲料水や衛生面、食糧の供給に関しても、ヴェネチアと海との関係は切り離せない。

ヴェネチアの郷土料理は、ヴェネチア語で書かれたヴェネチア料理の本にも紹介されている。

海の幸、レーズンやとうもろこし粉などの保存食を使った料理、ヴェネチア本島周辺の「畑の島」で採れる郷土野菜は、現在でもヴェネチアの食卓を彩っている。

この記事では、今でも日々の食卓に欠かせないヴェネチア料理の中でも、春に楽しめる食事を紹介する。

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モエケ(Moeche)

5月に入り、暖かくなってくると、ヴェネチアではモエケが食べられる。

モエケって何だろう?

実は、蟹のことだ。

蟹は普通、グランキオ(Granchio)と呼ばれる。

しかし、一年の間でも二度だけ、しかも数週間の間だけ、蟹が脱皮して柔らかくなり、甲羅も食べられる状態になるのだ。

この時のカニを、モエケと言う。

これば、ヴェネチアの方言で、「柔らかいやつ」という意味だ。

どうやって料理するのか?

まず、生きているモエケを、溶き卵に2時間浸して、卵をいっぱい吸わせる。

そして、米粉をつけて3分揚げるだけ!

卵を吸っているので、中がプリプリで美味しい。

でも、なんか、すごい料理の仕方です…。

カストラウーレ(Castraure)

イタリア全土でアーティチョーク(Carciofo)は食べられるが、ヴェネチアには独特のアーティチョークがある。

それがカストラウーレ(Castraure)で、小さくて、紫色のアーティチョークである。

ヴェネチア本島には畑がないが、隣の島のサンテラズモ(Sant’Erasmo)は畑の島だ。

カストラウーレは、この島で育てられている。

葉の先端を切り落とし、半分に割って、ニンニク、水、塩、イタリアンパセリと柔らかくなるまで煮たら出来上がり。

茎の方も美味しいので、捨ててはいけない。

実は、この茎の部分が一番美味しいと言われている。

実と茎を煮るだけでいいので簡単だし、ホロホロに柔らかくなったお豆のような味は、日本人も大好きな人が多い。

小さくて柔らかいので、葉の方も美味しくいただけ、一般的なアーティチョークのように、底の方だけを調理することはない。

ちなみに、アーティチョークの底はフォンディ・ディ・カルチョーフォ(Fondi di carciofo)と言う。
リアルトの市場や、小さな八百屋さんには、4月から6月の間、水を張った発泡スチロールの箱が置かれている。
中には、レモンとアーティチョークの底がぷかぷか。
レモンと水を入れるのは、アーティチョークが黒ずまないようにするため。
隣にはおじさんが座っていて、ナイフを使って、物凄い速さで葉を切り落とし、クルクルっと丸い円盤型にして、水の中に投げ込んでいく。
おじさんの椅子の周りは、たちまちアーティチョークの葉で一杯になる。

フィオーリ・ディ・ズッカ(Fiori di zucca)

こちらは、ヴェネチア だけでなく、イタリア全土で春〜夏にかけて食べられる食材。

フィオーリは花のことで、ズッカは南瓜のこと。

ただし、「フィオーリ・ディ・ズッカ」というと、ズッキーニの花のことを指す。

この時期は八百屋さんで売っていて、小さなズッキーニにくっついたままの雌花が売っていたり、花だけの雄花の束が売っていたり。

雌花は身の部分(ズッキーニ)も食べられるし、花も食べられる。

ただし、花はすぐに傷むので1日しか持たず、すぐに調理しないといけない。

よく作られる料理は、花の天ぷら(フィオーリ・ディ・ズッカ・イン・パステッラ =Fiori di zucca in pastella)。

そのほかにも、フリッテッラ(Frittella)というオムレツに混ぜたり、リゾットやパスタのソースにしたり。

黄色い色がとても綺麗に発色して、春らしい料理に。

花の天ぷらは、季節感もあり簡単なので、ヴェネチアではよく作って食べていた。

日本の南瓜の花でも作れるそうなので、もし手に入ったら、作ってみて。

ただし、雄蕊や雌蕊の部分は、少し苦いので、取るのをお忘れなく。

スッケッテ(Succhette)

スッケッテ(Succhette)は、ヴェネチアを取り囲むカヴァッリーノ島やヴィニョーロ島、サンテラズモ島で作られるスモモのこと。

黄色くて小さく、少し細長い楕円形。

小ぶりだが皮まで柔らかく、とてもジューシーで甘いスモモ。

スッケッテを食べるなら、やはりヴェネチアが一番。

摘みたての素朴な味のスモモは、まるで野生の味。

日本ではスモモは、数ある果物の一つで、毎日食べるものではないと思う。

でもイタリアでは、スモモ(SusinaまたはPrugna)は、食後のデザートに毎日食べる人もいるほど、メジャーな果物の一つ。

メジャーな食べ物なので、呼び方や種類がたくさんある。

ヴェネチアの八百屋さんにはスッケッテの他に、Goccia d’oro(ゴッチャ・ドーロ)Prugna Regina Claudia(プルーニャ・レジーナ・クラウディア)Sangue di Drago(サングエ・ディ・ドラゴ)などのスモモが置かれている。

Goccia d'oro(ゴッチャ・ドーロ)は、「金のしずく」という意味。
名前の通り、黄色っぽいスモモで、水分が多くとても甘酸っぱい。
スッケッテとは違って大きめで、コロンとした丸い形が特徴。
Prugna Regina Claudia(プルーニャ・レジーナ・クラウディア)は、「クラウディア女王のプルーン」という意味。
色は紫のものと黄色いものがある。
水分が少なく、シャキシャキした食感が特徴。
Sangue di Drago(サングエ・ディ・ドラーゴ)は、「龍の血」という意味。
中まで赤いのが特徴。
瑞々しく、酸味が少ない私が一番好きなスモモ。

日本のスーパーは、日本各地から食材が集められており、品質も高い。

しかし、イタリアの八百屋さんは、地元の農家を愛し、野菜や果物にも楽しい名前がついている。

カペルンゲ(Capelunghe)

カパロンガは、ヴェネチア方言でマテ貝のこと。

カペルンゲはヴェネチアの方言で、イタリア語でカンノリッキ(Cannolicchi)と呼ばれる。

これはマテ貝のことで、10cmくらいの細長い貝。

一年中食べられるが、自分で採りに行くなら、やはり海が暖かくなってからだろう。

「ヴェニスに死す」でも舞台になったリード島でも、潜って取ることができるが、私はとったことはない。

採りたてなら、イタリア人でも、レモンと黒胡椒をさっとかけて、生で食べる人もいる。

私はヴェネチアのレストラン2件で調理したカペルンゲを食べたことがあるが、一件は安いオステリアで、新鮮でなかったのか、臭かったのを覚えている。

もう一件は高級レストランだっただけあってか、匂いはせず、とても美味しかった。

砂に埋まっているカペルンゲを採る映像があったので、よかったら観てみて。

おまけ:ポレンタ(Polenta)

調理前のポレンタの粉

ポレンタは、乾燥したトウモロコシの粉に水と塩を混ぜて加熱したもの。

ヴェネチアでは、郷土料理として食べられている。

こちらは春の食べ物ではなく、一年中食べられるが、寒い北イタリアの保存食として、欠かせない食べ物だ。

加熱したばかりのポレンタはトロトロで柔らかいので、おかゆのように、病気の時に子供に食べさせたりする。

冷えると固まるので、1センチくらいの暑さに切って、食べる直前にグリルで焼いて食べる。

白いポレンタと黄色いポレンタがあるが、私が好きなのは、出来立ての白いポレンタ。

トロトロの状態で、ホタルイカ(Calamari)のトマト煮に付け合わせて食べると、とても美味しい。

ところで、中央イタリアや南イタリアの人は、北イタリア人をポレントーネ(とうもろこし野郎)と言って馬鹿にすることがある。

逆に北イタリア人は、南イタリア人をテローネ(土人、農民)と呼ぶことがある。

絶対に使ってはいけない言葉だけど、ポレンタはとても美味しい食べ物。

とうもろこし粉を使ったレシピは、他にもクッキーのザエッティ(Zaeti)が有名。

ヴェネチアのパン屋さんやお菓子屋さんには、必ず置いてあるので、行ったら食べてみよう。

まとめ

ラグーナの中には大小様々な60以上もの島が点在しており、有名なのはレースのブラノ島や、ガラスのムラノ島だろう。

そして、その中には上にあげたような「畑の島」も存在する。

上にあげた海産物や果物・野菜などは、全てヴェネチアの干潟(Laguna)の中で採られたものである。

地元志向のヴェネチア人は、せっせとこういった食材を食べているが、もしヴェネチアの水が汚染されたら…。

ヴェネチアは、足元に運河が通っている。

今はその運河は、あまりに汚く、水浴びをすることは到底できない。

でも、ヴェネチアの海産物や野菜を食べれば、薄めたその水を飲んでいるのと同じことである。

これは、私たちが暮らす日本でも全く同じことが言えるのだが、ヴェネチアは生活のすぐそばに水がある分、その実感が強く沸くのである。

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