2月25日、イタリアの大手新聞ラ・レプッブリカに、フードデリバリー(食事宅配)のプラットフォーム4社に対して、「計6万人の直接雇用」と「約943億円の支払い」が命じられたと報道された。
フードデリバリー配達員の実態
コロナ禍の中、日本でもウーバーイーツなどのフードデリバリーの利用が増えている。
でも、配達員にとって、この仕事は理想的で守られていると言えるだろうか?
配達員は個人事業主で、直接の雇用関係はない。
好きな時に働けるのはいいが、配達数が減るとランク付けで下の方になってしまい、依頼がくる優先順位が下がってしまう。
優先順位を上げるために、休暇も取れないのなら、「好きな時に働ける」というのとは真逆の形だと分かる。
依頼が来なければ、時給が最低賃金を下回ることもある。
もし、足の骨を折ってしまったら、なんの保障もなく、ただ収入がなくなってしまう。
このような労働形態を「違法」で「犯罪」だと認定したのが、今回のミラノの検察庁グレコ氏と労働監督官ボロニャーニ氏である。
「彼らは奴隷ではない。市民である。」
このミラノ検察庁グレコ氏の言葉は、配達員の多くが移民であることとも関係する。
「驚いたことに、彼らのほとんどは合法な滞在許可を所持していた。
しかし、(この労働形態は)彼らがここでキャリア形成をすることを許可しない仕組みになっている。」
また、グレコ氏はこうも強調した。
「彼らは、パンデミックの最中、多くの人々に食べ物を運ぶという必要不可欠な役割を担ってきた。
また、それだけでなく、沢山の企業が生き残るためにも貢献してきた。」
だから、彼らの未来を法律によって守っていく、というのが今回の決定だ。
今回、6万人の配達員が「リスクにさらされている」と認定され、ウーバーイーツ 、グロボ、ジャストイート、デリバルーに対して、90日以内の直接雇用と約943億円の支払いを命じた。
この命令に応じない場合は、差し止め命令が出され、法的な手続きが取られるという。
デジタル産業と課税
フードデリバリー配達員は、企業による社会保障が適用されていない。
コロナ禍で図らずも急拡大したフードデリバリー産業界。
かなりのお金を稼いだはずである。
ということは、この大手の企業が社会保障費を国に納めれば、国としても大助かりだろう。
今回直接雇用を命じた6万人分の社会保障費が、国にも入ってくるのだ。
そして、各国で問題になっている、デジタル化・グローバル化する事業への課税の問題もある。
「オンラインでの支払いは莫大な額にのぼる。
受け取りがどの国で行われたかは分からないが、労働者とプラットフォームの関係は、イタリア国内で成立したものである。」
ミラノ検察庁は、デジタル脱税が行われていないかの税務調査も行っている。
日本の場合
日本でも、移民を利用した労働といえば、技能実習生の労働形態が社会問題になっている。
もちろん、彼らも正規のビザや在留資格を持って日本にやって来るのに、彼らもまた法律によって手厚く守られているとは言えない。
「彼らは奴隷ではない。市民である。」とは、日本も耳に痛い話だろう。
それから、正規雇用でない、契約社員やパートタイムなどの非正規雇用の増加も問題になっている。
正規雇用をしなければ、企業は労働力を安く買えるだろう。
しかし、非正規労働者は正規労働者と同じだけ働いても、社会保障だけがない。
そして、国に対して支払われる社会保障費も減っていくのだ。
また、個人事業主の問題は、フードデリバリー産業だけの問題ではない。
ヤマハでも、個人事業主として働いてきた講師がコロナ禍で補償が支払われず、直接雇用にむけて動き出したというニュースが耳に新しい。
どんな労働の形態が正しいのか。
どうすれば雇う側と雇われる側、両者にとって幸せなのか。
公平とは、平等とは、対等とは、なんだろう。
私たちは奴隷ではないし、権利を持った市民である。
「大企業栄えて国滅ぶ」という言い方があるが、国には企業も労働者も含まれているはずである。
「国」というものが、「巨大な労働組合」として、企業と労働者全体の国民の意見を反映した行政を行なっていくことが必要だろう。
ある配達員の言葉
一番上でシェアした動画の中で、印象に残った言葉を紹介する。
「僕たちは、コミュニティーのために働いている。
この社会のために働いているんだ。」
これは、私たち労働者全ての言葉でもあると思う。
非正規労働者も、個人事業主も、技能実習生も、みんなこの社会の役に立っているのだ。
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