留学をしたい人へ イタリアのアカデミア修了生の体験談

留学を考えたら

まず、皆さんにお話したいのは、留学しても、人間は買い物をして、ご飯を食べて、排泄をして、生きていくっていう行為に変わりはないということだ。

皆さんの中にも、一人暮らししながら大学に通っている方が、沢山いると思う。

それができれば、別に外国に行っても生きていける。

私もイタリアで、スーパーの買い物袋を両手に持って歩きながら、「私って、イタリアまで来て、何やってんのかな~」って思うことが、何度もあった。

別に、何千キロ移動しようと、やってることは変わらない。

毎日、献立考えるのって、大変だ。

スーパー行って、料理して、食べて、ウンコして。

どこだって、同じである。

北海道でも、京都でも、イタリアでも、全く同じ。

でも、それは行ってみてから分かったことで、行く前はただのあこがれだった。

まずは大使館のホームページを見てみよう

私はまず、イタリアに行きたいなって思ったとき、京都にあったイタリア領事館を訪ねてみた。

どこの国でも、大体、国費留学生っていって、政府が優秀な留学生に向けた奨学金がある。

日本人の場合は、日本政府の奨学金もあるし、受け入れる側の国の政府から出るのもあると思う。

イタリアは、イタリア政府の国費留学があった。

こちらも、イタリア大使館で情報をもらうことができる。

でも、私には国費留学はハードルが高く感じたので、別の奨学金を利用して、まずは語学留学をすることにした。

語学学校に3ヶ月〜半年通って、その後に正式に大学に入学するパターンは、一番多いかも知れない。

「いきなり大学に留学!」でもいいと思うが、まずは少し語学学校に通いながら、大学を視察する。

そして、「ここで暮らしていけそう!」という自信が持てたら、ちゃんと留学手続きに移るのも、いいかも知れない。

3ヶ月の語学留学

奨学金をいただくに当たって、私の出身校がすでに受給対象になっていたので、特に審査はなかった。

この奨学金では、イタリア大使館が提携しているイタリア国内の語学学校に、最大3ヶ月、授業料の半額を補助してもらえた。

奨学金については、ぜひ行きたい国の大使館に問い合わせてみて欲しい。

短期から長期まで、色々な奨学金があると思う。

それで、私はヴェネチアの語学学校に通い始めたのだが、行ってみたら、美術や音楽を勉強している、同年代の日本人も何人かいた。

でも大半は、ヨーロッパ各地から来ている学生や、定年退職後の女性が多かった。

ドイツ、オーストリア、ポーランド、イギリス、フランス、フィンランド、、、その時にできた友達は、今でも、年齢も国籍も違うけれど、大切な友達だ。

語学学校のいいところは、世界中に友達ができる所かもしれない。

しかし、その語学学校は、今年はコロナの影響で何ヶ月間も授業ができなくなった。

現在も、生徒数が戻らないので、オンラインで授業をしている。

なので逆に、日本にいながらにして、実はその学校の授業が受けられるのだ。

これはすごいことだ。

メリットとしては、費用が少なく済むこと。

授業料自体は変わらなくても、滞在費や旅行費、食費はかからない。

それと、やっぱり、留学というのは少なからずストレスが溜まるものだ。

人によっては、何年も外国にいて平気という人もいるが、大半の日本人は、一年に一回くらいは日本に帰りたくなると思う。

そうなると飛行機代(+交通費などの旅費)もバカにならない。

それに、留学しても結局、あまりにストレスを感じる場合、安心できる日本人とばかりつるんで、家でも日本の友達とSNSで連絡を取っている、なんていうこともあり得る。

これでは、留学してもあまり意味はないので、それならオンライン留学の方がずっといい。

オンラインのデメリットとしては、授業の合間に友達とおしゃべりをしたり、知り合った友達とカフェに行ったり、お昼を食べに行ったりできないことがあるだろう。

語学の勉強では、ネイティブと話すことはもちろん大事だが、習い始めた時は、外国人同士で話すのが、とてもいい練習になる。

日本人同士は、日本語になってしまうのでダメだ。

でも、それ以外の外国人だったら、お互いカタコトであっても、レベルが同じくらいなら、楽しく会話できるし、これが本当に大事だと思う。

その点、語学学校へ行けば、イタリア語を勉強する外国人との出会えて、同じレベルで話すことができる。

切磋琢磨しながら一緒に勉強する、素敵な友達も見つかるだろう。

正式な留学の手続き

その3ヶ月の語学学校を終えた後、一旦私は日本に帰ってきて、翌年の9月の入試のために、イタリア大使館で手続きをした。

語学学校に行くのは、旅行と同じで簡単だった。

でも、大学に入るのには、めんどくさい手続きがいっぱいある。

卒業証明書をイタリア語の認定翻訳士に翻訳してもらうとか、正式な文書につけるアポスティーユという印鑑をもらうとか、ようは事務手続きがめんどくさい。

そのために何度も東京まで行かなくてはならなかったし、申し込みから渡航まで、半年かかった。

3月から大使館での手続きを始めて、9月に入試を受けた。

この時に一緒にイタリア留学の手続きを進めた仲間は、今も大事な友達だ。

イタリアに渡ってからも、お互いの住む場所に遊びに行って観光したり、お互いの大学の情報交換もできた。

意外と長い付き合いになるかも知れないので、ここで出来た友達は大切にしよう。

暮らしの手続き

いざ、入学試験に合格。

さっそく次は、イタリアでクラス準備にとりかからなければならない。

入学してからヴェネチア中を歩き回って、色んなカードや書類をつくってもらった。

「食堂の学割カード」「学生証(公立の美術館が無料になる)」「船やバスの切符を買うための住民カード」「学校の試験を受けるための冊子」「納税証明」「合格証書」「滞在許可」などなど。

驚いたことに、こういうの、学校では誰も教えてくれなかった。

普通、入学ガイダンスとかあるんじゃない?と思うのだが。。。

入学ガイダンスは、めっちゃ長い学長のスピーチと、学生自治会の会長のスピーチだけだった。

ちなみに、数年後にイタリアからイギリスに交換留学をしたときは、イギリスでの手厚いサポートに感動した。

滞在許可など、警察に行かなくても、わざわざ警察の方が学校に来てくれるおもてなしぶりだ。

入学初日に、新入生のサポートをする学生アルバイトがおり、宿の紹介だって、手取り足取り説明してくれた。

イタリアでは、ぜんぶ友だちに聞いたり、小耳にはさんだりして作ったので、イギリスのサービス精神に驚いた。

どこに行けばいいのか、何時に行けばいいのか、どうすれば安くなるのか、色んな人に教えてもらって手続きした。

大変だったけど、その分、人に助けられる温かさは知れたかも知れない。

イタリアの美大の授業

ヴェネチアの美術学院では、絵画学科の修士課程に入った。

修士課程と言っても、実技だけでなく、学科もたくさん取らなければならなかった。

日本の美大では壁画を専攻したので、本場のイタリアで壁画や油絵の修復の授業を聴けるのは、とても楽しかった。

でも、もちろん、最初は言葉が全然わからない。

スライドを全部写して、後で単語を調べてひたすら読んだ。

もう写経みたいなものだ。

意味はわからないのに、ただただ何時間も書き続けるのだ。

そうするとだんだん眠くなってきて、寝てしまうことも何度もあった。

でも、友達に助けてもらったりしながら、後でちゃんと意味がわかるまで読み直した。

スライドや板書のない授業は、先生の言ってることは分からないので、授業中に教科書を読んでいた。

分からない単語を調べながら、少しづつ。

難しくてあきらめてしまった授業もいくつかあったが、言葉が分からなくても面白い授業って、結構あるものだ。

コンテンポラリーアートの授業だったら、作家の名前だけでもメモしておけば、後で日本語で色々と読める。

ヴェネチアの歴史的建築物をめぐる授業も、観光ツアーみたいな感じで、めちゃくちゃ面白かった。

日本の美大でも、学芸員資格のための授業で「博物館実習」というのがあったが、それと似たような授業だった。

歴史的建物の解説は、日本語でウィキを読んだり、翻訳したりすれば、ちゃんと手に入る。

イタリアで学ぶからといって、全てイタリア語で読む必要はない。

大事なのは、中身がわかることだ。

だから、日本語の本やネットもフル活用して、授業理解に役立てることをお勧めする。

試験と卒論

学期末には、試験がある。

試験では、先生との面接の、口頭試験が基本だ。

日本では口頭試験というのはあまりないと思うが、イタリアの美大ではこれが基本。

でも、私はしゃべるのに自信がないので、レポートを用意していくようにした。

筆記試験と違い、融通が利くので、自分なりの形で成果を見せれば、合格点をもらえた。

一気にイタリア語が読めるようになったのは、卒論を書いた時だ。

卒論は、自分の好きなテーマを選べるので、授業のレポートより、ずっと楽しい。

私は、17世期のヴェネチアのフレスコ画に見られる、トロンプルイユの表現について書いた。

一年以上かけて、ヴェネチア中のフレスコ画のある邸宅を回っては、写真を撮った。

一般公開していないお城も、許可を取って入らせていただいた。

そして、図書館でキーワードで検索しては、関連する本のページを探し、情報を積み重ねていった。

夏休みは、1ヶ月間、毎日図書館に通った。

卒論のダイジェスト版は、こちらの記事で公開しているので、ぜひ読んでみて欲しい。

学校選びのポイント

私の通ったヴェネチアの美術学院は、版画の先生がとても素晴らしい学校だった。

自分が通う学校の特色は、事前によく調べておいて欲しい。

音楽の人だったら、習いたい先生がいるというのが大事だと思う。

美術の人だったら、その学校がどの分野に特化しているかがポイントだ。

例えば、ヴェネチア だったら、木版、石版、シルクスクリーン、銅版、どれも授業も先生も充実しているが、フレスコ画のクラスはない。

逆に、ボローニャだったらフレスコ画がある。

ローマなら、フレスコやテンペラなどの、修復を学べる学校もある。

ミラノのブレラ美術学院は有名だが、製作は家でするスタイルで、午後2時で校門が閉まってしまうそうだ。

そして、国によっても特徴が変わる。

イタリアは、技術や職人技を重んじる風潮があるが、イギリスはインスタレーションなど、発想を重視する傾向がある。

また、オーストリアには、彫刻で有名な学校がいくつもある。

ヨーロッパ内の交換留学

ヨーロッパの国の中であれば、エラスムスという制度を使って、EU内の交換留学ができる。

学費は自分の学校に納めるだけでいいので、イタリアからイギリスに留学する場合は、とてもお得だ。

というのも、イタリアの学費は、イギリスの学費より、ずっと安いからだ。

イタリアの国立のアカデミア美術学校の学費は、諸々合わせても年間で15万円くらい。

イギリスだと、軽く10倍くらいするのだが、イタリアの学校に在籍する生徒が、1年間エラスムスを使ってイギリスの学校に行っても、学費はイタリア価格である。

私も、エラスムスを使って3ヶ月イギリスに行ったのだが、確かに学費は安いが、生活費が高かった。

ヨーロッパでは、例えば隣のスイスとイタリアであっても、生活費は倍ちかく変わる。

ただし、生活費や学費が安いからといって、イタリアが最高かというと、それは分からない。

留学生に対する学校のサポートも、イギリスは至れり尽せりなのに比べて、イタリアではそもそも留学生をサポートしようという人やシステムが存在しなかった。

就職に関するサポートも、雲泥の差がある。

しかも、そもそもイギリスの方が、普通に就職できる可能性が高い。

だけど、私はイタリアを選んで良かったと思っている。

夏の太陽、街並みの美しさ、美味しい食べ物。

選ぶのは、やっぱり自分しかいない。

最後にアドバイス

留学したいみなさんにアドバイスとしては、留学は手段ではなく目的だということだ。

「就職のために。。。」「語学を上達するために。。。」

そういう目的だったら、今はオンラインで大丈夫だ。

でも、留学したい。

そう思うあなたには、何か特別な想いが、心の中にあるのだと思う。

もしそうなら、行っていいと思う。

それから、着物を持っていくのもオススメだ。

海外で喜ばれるし、一目で日本人だと分かる。

ホームパーティーや、何かの行事には、着物で行けば間違いない。

人種差別から身を守るのにも、便利かも知れない。

普段の服装も、ある程度は気を使った方がいいだろう。

いらない差別や、変な扱いをされないための、ヨロイとして。

留学で友達をつくるときのアドバイスは、こちらの記事にまとめてみた。

卒業のとき、おもったこと。

卒業式の時に、わたしはSNSにこんなことを書いていた。

「イタリア人はね、優しかったです。

ふと気づいたら、大好きな人たちに囲まれて、支えられていました

それは、最初ずっと怖いと思ってた、イタリア人でした

私のことを知ってる人、思ってくれる人、そばにいてくれる人。

年齢も国も性別も関係ない。

それを知るためにここにきたのかもしれません。」

卒業式に来てくれたみんなを見て、ずっと思い描いていた瞬間が、訪れたことを知った。

叶うとは思わなかった夢だったけど、ちゃんと現実になった。

不安な気持ちで、卒論を発表する私の周りに、温かい輪ができていた。

「大丈夫だよ、アイナ。」

「大丈夫だよ。」

あの時、私は本当に、みんなを頼りにしていた。

差別とかもあったし、イタリア人は怖かったんだ。

顔も違うし、仕草もなんだか

友達でもやっぱりちょっと距離を感じて、日本人の友達と会うと癒された。

でも、その瞬間、私は本気で友達の手にすがっていた。

「大丈夫だよ。」っていうあったかい声の人たちを見上げたら、それはみんなイタリア人で、びっくりした。

あれ、怖いんじゃなかったのか!って、自分にツッコミたくなった。

あの記憶があるから、私は今も、こうしてイタリアに関わりたいと、思い続けられるのだと思う。

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