かなわぬ恋の寓話
「ニューシネマパラダイス」という映画の中で、主人公トトの父親がわりでもあり、親友でもあるアルフレード。
好きな女の子に気持ちを伝えられないトトは、「彼女に、僕の気持ちを分かってもらう方法がないかな。」と悩んでいる。
するとアルフレードは、「感情なんてものは、分かるもんじゃない。彼女に分からせることなんて、何もないさ。」と言う。
そしてアルフレードは、ある寓話をお話しするのだ。
「昔、ある王様が宴を開きました。
そこには、国中で一番美しいお姫様達がいました。
門番の男は、王様の娘を通りすがりに見かけました。
彼女は誰よりも美しく、彼はすぐに恋に落ちてしまいました。
しかし、貧しい兵士が、王様の娘に対して何ができたでしょう?
ある日、彼はついに彼女に会って、こう言いました。
彼女がいなければ、彼は生きてはいけないと。
感動した姫は、彼にこう言いました。
もしあなたが、100昼夜、バルコニーの下で私を待つことができるなら、その時私はあなたのものになるでしょう。
彼は、すぐにバルコニーの下へ行き、何十日も過ごしました。
お姫様は、毎晩窓の中から彼を見ていました。
しかし、彼は微動だにしません。
雨の日も、風の日も、雪の日も、彼はそこにいました。
鳥にフンをされても、ハチに刺されても、彼は動きません。
90日目の夜のこと。
彼は白く乾き切り、頬には涙がつたいました。
しかし、彼は涙を止めることができません。
目をつぶるほどの力も残されていなかったのです。
その間も、お姫様は彼をじっと見つめていました。
99日目の夜のこと。
兵士は急に立ち上がり、椅子を持って、立ち去りました。」
この寓話の意味するところは、その前のアルフレードのセリフを鑑みれば、「人の感情なんて、理解できるものじゃない」ということだろうか。
でも、私は個人的に、こういう解釈をした。
彼は、彼女を手に入れるために苦しんでいる。
だけど、彼女は彼を苦しませておいて、それを黙って見ている。
これはつまり、彼女は彼を愛していないということだ。
それが分かって、涙を流したのではないだろうか。
若いうちは、恋に恋するだけで、相手のことを本当に思いやったりできないことが多い。
アルフレードは、本当にトトを大事に思っていたから、不毛な感情の駆け引きよりも、もっと大事な思いやりや、生活や、夢というものに意識を向けて欲しかったのではないだろうか。
ただし、これについては、いろんな人が色んなことを書いているので、真偽の程はよく分からない。
また、ニューシネマパラダイスの劇場版(短い方)では、これについてのトトの解釈は語られないが、完全版(長い方)では、語られている。
気になる人は、完全版を観てみるのもいいかもしれない。
アルフレードの名言1
主人公のトトが、映画館で働くおじさんのアルフレードに「アルフレード、友達になろうよ。」と話しかける。
すると、アルフレードは、こう返す。
「Io scelgo i miei amici al loro aspetto e i miei nemici per la loro intelligenza.」
「友達は顔つきで選ぶ。敵は頭の良さで選ぶ。」
これは、オスカー・ワイルド原作の「ドリアン・グレイの肖像」という映画のセリフ。
アルフレードは、映写室でずっと映画を観ているので、映画のセリフを暗記している。
ニューシネマパラダイスでは、所々でアルフレードが映画の名言をサラッと言うのが見どころだ。
ここでは、トトに「お前は、友達にするには頭が良すぎる」と、トトの申し出をかわしている。
仲良しのおじさんに自転車に乗せてもらって、まだまだ小さな子供なのに、大人のアルフレードと対等な「友達」になりたいんだ、というトトが、とても可愛らしい。
アルフレードの名言2
初めて恋をしたトトに向かって、アルフレードが言う。
“Più pesante è l’uomo e più profonde sono le sue impronte. Se poi c’è di mezzo l’amore, l’uomo soffre, perché sa d’essere in una strada senza uscita.”
「人が重くなるほど、足跡は深くなる。そして、そこに愛が加われば、彼はもっと苦しむだろう。なぜなら、その道には出口がないことを知っているから。」
愛が重いほど、足跡は深くなり、地面に沈み込む。
その道に出口がないということは、想いはどんどん深くなり、彼は地面の中に沈んでしまうということだろう。
これに対し、トトが「なんていいことを言うんだ。。。でも、悲しくなるよ。」と言うと、アルフレードは、「俺が言ったんじゃないよ。『丘の羊飼い』の中で、ジョン・ウェインが言ったんだ」と言う。
するとトトが、「アルフレード、君ってほんと、イカサマ師だね!」と、2人は笑い合うのだった。
アルフレードの名言3
育った村を出て、ローマに行くことに決めた主人公のトト。
彼にアルフレードは、別れの際にこう言った。
「Qualunque cosa farai, amala, come amavi la cabina del Paradiso quando eri picciriddu.」
「何をするにしても、自分のすることを愛するんだよ。ちっちゃい頃、『パラダイス』の映写室を愛したように。」
映画が大好きで大好きで、大人の目を盗んでは覗いたり、なんとかして映写室に入り込んだりしていた子供の頃のトト。
そういう気持ちを忘れないで。
「自分のやってることを、子供みたいに愛して。」というのが、イタリアらしくて素敵な表現だ。
なんだか、今の自分自身にも元気を与えてくれたフレーズだった。
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