イタリア マッタレッラ大統領 共和国記念日に寄せて

イタリア マッタレッラ大統領 共和国記念日に寄せて

EUの連帯とコロナ債

「我々は一人ではありません。

イタリアという国は、この険しい坂道を登るにあたって、一人ぼっちではありません。」

セルジョ・マッタレッラ大統領は、6月1日、コロナで亡くなった人々への追悼コンサートでの演説で、こう語った。

コンサートは、イタリア共和国記念日の前日に、クイリナーレ庭園で行われ、動画の最初で視聴可能である。

「ヨーロッパは、統合の真の精神を再確認しました。

EUの国々の連帯は、様々な選択肢の中の一つではありません。

連帯こそが、我々の世代が直面した最大の危機に立ち向かうことを可能にする、唯一の道なのです。

EUなくして、ヨーロッパの各国に将来はありません。

それは、より経済的に強い国であっても、コロナの影響が比較的小さい国であっても、同じことです。」

以前の当ブログの記事「EUは結束するのか」の中で書いた通り、EUは、連合国が一体となってコロナ債という基金を作るのか、コロナの被害が大きい国への融資(MES)を行うのか、議論がなされてきた。

4月23日のテレビ会議では、被害が比較的小さく、経済的に強い国々(ドイツ、オーストリアなど)の合意が得られなかった。

しかし、5月18日、状況は一転する。

フランスとドイツがテレビ会談を行い、5000億ユーロ (約58兆円)のEU基金設立を共同提案することで合意したのだ。

EU全体で借金をしてイタリアなどへ補助金に回され、30年かけてヨーロッパが共同で返済する、事実上のコロナ債が発行されることになる。

そして5月27日、EUの委員会は、7500億ユーロ(約88兆7500億円)規模のコロナ債を発行し、「Next Generation EU(次世代EU)」という基金を作るすることを提案した。

7500億ユーロのうち5000億ユーロが助成金として、2500億ユーロが融資となる。

イタリアは緊急助成金として820億ユーロ、910億ユーロの融資で、合計1730億ユーロ(21兆円)を受け取る。

820億ユーロ(10兆円)は返済の必要がなく、910億ユーロ(11兆円)は低金利融資である。

その他にも、スペインは770億ユーロの助成金と最大630億ユーロの融資。

ギリシャは助成金と融資を合わせ320億ユーロ、フランスは390億ユーロの助成金を受け取る。

ただし、この実現にはEU加盟国27カ国全ての承認が必要となる。

今後のコロナ債の行方とイタリアの運命に注目したい。

イタリア国内の連帯

マッタレッラ大統領は、イタリア国内の連帯も呼びかけた。

特に、自分を初めとして、政治家という責任のある人々の協力を呼びかけたのだが、このようなリーダーシップを取れる政治家が日本にいるだろうか。

「この6月2日という日は、行政の責任のある人々にとって、重要な日です

もちろん、私をはじめとして、です。

人々の苦しみや希望、信頼を必要としている人々を、導く人間となるように尽力しなさい。

一般的な政治論の中で、政策を支持するとか、拒否するとか、そういうレベルの話をしているのではありません。

民主主義とは、2つの対立する意見の中から、成長し、産み出されるものです。

しかし、政治より、もっと重要なことがあります。

政治は、これを超えることはできません。

与党も野党も、それには関係ありません。

共通の、倫理・道徳です。

一つの運命をシェアすることです。

お互いへの責任を、受け止めることです。

一つの世代から、もう一つの世代へ、世代間の責任を受け止めることです。

一つの地域から、別の地域へ。

ある社会的状況から、別の状況の人へ。

みな、同じ歴史の一部です。

みな、同じ国民です。

もう一度、皆さんにお願いします。

政治的思想の違いを超えた、協力をする意義を考えてください。

我々の愛するイタリアを襲った、この共通の危機に対して、一緒に頑張っていかなければなりません。」

日本でも、コロナ禍の下では、同じような問題が起こった。

若い世代と、年配の世代の、コロナのリスクの認識の違い。

感染が拡大した地域から、別の地域へ移動する際の配慮や、お互いの県で患者を受け入れたり、医療面での協力が見られたり。

医療関係者への差別が見られたが、彼らへの感謝も表現された。

キー・ワーカーと呼ばれる、スーパーの会計や宅配、ゴミ収集など、なくてはならない職種の人々への、無理解からくる差別も見られたが、感謝や敬意も培われた。

政治家の間でも、与党と野党の意見の食い違いがあり、対立が深まる。

マッタレッラ大統領は、このような状況を見て、「我々は世代・地域・社会的状況・政治的思想を超えた、一つの運命共同体である」と呼びかけたのである。

それは、イタリアだけでなく、日本国内もそうであるし、世界全体にとっても、同じことが言えるであろう。

共和国の日のオレンジ・ジレ

オレンジ・ジレ(Gilet arancioni)は、アントニオ・パッパラルドという前国家憲兵(カラビニエーリ)長官が率いる政治運動である。

「ヨーロッパ、官僚、そして国際主義者のために我々を抑圧している鎖が破られるまで、我々に平和は訪れない」

というのが彼らの主張である。

ユーロを廃止してリラを再び使うことなど、EUを重視するマッタレッラ大統領やコンテ首相とは正反対の路線である。

2019年から活動していたが、コロナでその過激な主張に注目が集まった。

「コロナは存在しない。コロナとは、我々を家に閉じ込めておくための、政府の陰謀である。」

「マスクは国際的な陰謀の象徴である。絶対に着けてはいけない。」

などと主張し、ソーシャルディスタンシングを完全に無視し、マスクもなしで、6月2日の共和国記念日も、ローマのポポロ広場で大規模な集会を行った。

演説では、マッタレッラ大統領やコンテ首相への批判を繰り返している。

この動画でも、パッパラルド氏の演説が視聴できるが、驚くべき内容である。

「コロナは怖くない!コロナの方が俺を怖がっている!」

「子供に、マスクをつけるなんて!彼らは、俺たちの未来だ!胸いっぱいに、空気を吸わせてあげよう!」

「肺炎ぐらい、俺は自分で直すぞ!」

そして、「自由を!(Liberta!)」と叫ぶ。

先日、イタリアでマスクをしないので注意をされ、抵抗したら逮捕された少年を写した動画がSNSで話題になった。

動画を撮っていた別の少年は、警官に向かって「憲法を尊重しろ!」と言い続けていた。

厳しい外出制限のもと、人々の不満が溜まってきたことは事実だろう。

このような人々に対して、マッタレッラ大統領の呼びかけは行われたのだが、オレンジ・ジレの人々には届いていないようだ。

「一緒なら、きっとできると、信じています。」

個人の自由と全体の利益の間で、葛藤が起きる中、「一緒に」という言葉が「自由を!」と求める民衆の気持ちと、うまく重なることができるだろうのか。

イタリア マッタレッラ大統領 共和国記念日に寄せて

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