ヴェネチアのこれから

ヴェネチアは昨年11月に歴史的な洪水(アクアアルタ)に見舞われ、その直後の3月にコロナ感染拡大のためにロックダウンされた。

観光を産業のメインとしてきたこの街の様子は、様変わりした。

多くの家の窓は閉まっているか、夜になっても明かりは灯らない。

誰も住んでいないのだ。

ヴェネチアの家は、多くが観光客の宿泊先である。

ヴェネチアの市民の生活は、どこへ行ってしまったのだろうか。

ヴェネチアの特殊性と、その問題点、そしてコロナによってもたらされたこれからのヴェネチアの変化の可能性について、探ってみた。

ヴェネチアはディズニーランド

ヴェネチアの観光客は、近年増える一方だ。

海の上に人工的に築かれた、中世の都市ヴェネチア。

島には400もの橋があり、車や自転車も通れない。

半ば強制的に過去の街並みを残した世界遺産の街には、しかし住民が暮らしている。

彼らにとって、ヴェネチアはディズニーランドではなく、学校に行き、仕事をし、眠り、子育てをし、食料品や日用品を買い、ご近所さんとおしゃべりをする生活の場である。

彼らにとって観光客は、時に生活を脅かす存在である。

市民は、観光への依存と嫌悪のパラドックスの間で、これまでも揺れてきた。

学校や仕事に行くために乗る水上バスは、観光客でいっぱいで、乗れないこともある。

土産物のお店はいっぱいだが、生活必需品の店が極端に少ない。

観光客を乗せた大型客船は、ヴェネチアの周りの海の環境と、建築物に大きなダメージを与えるとして常に反対活動が行われてきた。

ロックダウンしたヴェネチア

しかし、ヴェネチアの人々の仕事は、観光に大きく依存している。

ホテルやB&Bなどの宿泊業、観光客向けのレストランやバールなど飲食業、土産物やブランドのショップ、ゴンドラ、美術館や歴史的建造物、コンサートや劇場などのエンターテイメント、ヴェネチア内外を移動するための交通産業、観光ガイド。

これらの仕事が、ロックダウンされ、観光客のいなくなったヴェネチアでは、すべて休業することとなった。

ケース1

この動画に最初に出てくる若者は、ロックダウンされてから、自分のボートの中で、猫と生活することにした。

今はパートタイムで、ボートを使って市内への生活必需品の輸送の仕事をしている。

「あの洪水は、酷かった。あれから、ヴェネチアの衰退が始まって、仕事も減った。その後観光客が少なくなって、すぐにコロナがやってきた。そして、仕事も経済も、すべてストップした。」

ケース2

帽子屋の店主の女性は、「ヴェネチアで、観光は悪いものだという人はいない。」と言う。

観光がなければ、この街は成り立たないからだ。

彼女も彼女の夫も、観光産業に携わっている。

夫は不動産を持ち、ホテルを経営しながら、イベントや展覧会を開催していた。

二人の収入は、ロックダウンでゼロとなった。

ケース3

レストラン「アニチェ・ステッラート」は、洪水では大きな被害を免れた。

「冷蔵庫や皿洗い機はダメになったけど、ワインボトルや食品はみんな無事だった。キャンセルが相次いだけど、次のシーズンがある。まだまだやり直せると思っていたわ。」

オーナーの女性は楽観的だったが、そこにコロナがやってきた。

ロックダウンされてから、まず簡単なワインボトルのデリバリーを始めた。

その後、料理のデリバリーも始め、現在は、テイクアウトも行いながら店を続けている。

貧しい経済構造

ローマ・サピエンツァ大学の研究者は、ヴェネチアの経済は、貧しい経済構造を持つという。

一部の企業や個人は観光で大儲けをしているが、その観光を支える労働者の収入は低い。

若者の仕事は観光産業に偏り、ヴェネチアでの日常生活をお金がかかりすぎるものにした。

真に豊かな経済のためには、観光産業への偏りをなくすことが必要だと言う。

これからのヴェネチア

この60年で、ヴェネチア本当の住民は3分の1になった。

住民がいなければ、住民のための産業は廃れていく。

観光だけに頼った経済構造を変えるには、住民を増やさなければならない。

住民が増えれば、生活に必要な産業が必要になり、経済が健全なものとなるだろう。

既に、観光客をターゲットにしていた宿泊業が、住民への賃貸を始めているという。

このコロナをきっかけとして、本当にヴェネチアのあり方が変われるのかどうか、まだわからない。

しかし、観光産業が回復しないのであれば、変わらざるをえない。

または、反動で観光客がどっと押し寄せ、今までと同じ経済構造に戻るのか。

沈みゆく海の街

地球温暖化の影響を受け、ヴェネチアは徐々に沈みゆこうとしている。

経済を健全化させたとしても、物理的に沈んでしまっては意味がない。

観光客は一時の夢を見るためにヴェネチアに来るかもしれないが、住民は生きていかなければならない。

ヴェネチアを儚い夢にするのか、持続可能な生活の場とするのか。

今、経済においても、環境問題の上でも、分かれ道に立たされている。

そして、この特殊な海の街の抱えるパラドックスは、我々の世界全体の縮図でもある。


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